映画「セザンヌと過ごした時間」あらすじ ネタバレあり エミール・ゾラとの交流

2016年にダニエル・トンプソン監督によって公開された本作品は、セザンヌ没後110年を記念して作られました。

2018年にエクスアンプロヴァンスにあるポール・セザンヌのアトリエを訪れた後、私はこの映画を通じてエミール・ゾラの存在を知りました。

映画を観てゾラの「制作」を読みたくなり、そこからゾラの世界にハマって「居酒屋」と「ナナ」「ジェルミナール」も読み、4年以上ぶりに再びこの映画を観てみたら、以前よりも深く楽しめるようになりました。

パリや南仏の美しい映像とともに楽しめるこの映画、セザンヌやゾラに詳しくなくとも、芸術家たちの交流と葛藤を垣間見ることができます。

なお、本作品は事実に基づくフィクションになります。

予告編はこちら

登場人物(キャスト)

・エミール・ゾラ(ギヨーム・カネ)
イタリア人の父を持つ、貧しい移民家庭に生まれた作家

・ポール・セザンヌ:(ギヨーム・ガリエンヌ)
裕福な銀行家の父を持つ画家

・アレクサンドリーヌ・ゾラ(アリス・ポル)
エミールの妻。ポールの元彼女

・オルタンス・セザンヌ(デボラ・フランソワ)
ポールの絵のモデルでのちに妻となる

・アンヌ=エリザベート・セザンヌ:(サビーヌ・アゼマ)
ポールの母

・ルイ=オーギュスト・セザンヌ(ジェラール・メラン)
ポールの父で裕福な銀行家

・エミリー・ゾラ(イザベル・カンドリエ)
エミールの母。夫と死別後、女でひとつで息子を育てる

・ジャンヌ(フレイア・メイヴァ)
ゾラ家のメイド。のちにエミールの妻となって二子をもうける

・バプティスタン(ピエール・イヴォン)
ポールとエミールの旧友ジャン=バプティスタン・バイユ

・ベルト・モリゾ(キャロル・ラブーズ)
マネの絵画のモデルとしても知られる、19世紀印象派の画家

・アンブロワーズ・ヴォラール(ロラン・ストケル)
画商

・ギ・ド・モーパッサン(フェリシアン・ジュトナー)
作家

・カミーユ・ピサロ(ロマン・コタール)
画家

・オーギュスト・ルノワール:(アレクサンドル・クシュネル)
画家

・アシル・アンプレール(ロマン・ランクリー)
画家

・エドゥアール・マネ(ニコラ・ゴブ)
画家

・タンギー爺さん(クリスティアン・エック)
パリの画材屋兼画商

映画「セザンヌと過ごした時間」のあらすじ

イタリア人の父を持つゾラは父が肺病で急死後、12歳の時に母と共にパリからエクスアンプロヴァンスに引っ越してくる。学校で「イタリア人」「貧乏人」などと言われていじめられていたゾラを助けたのが1歳年上のポール・セザンヌだった。その日から二人は一緒に遊ぶようになり、青春時代をともに過ごす。

成人してパリに出てきた後もゾラはバカロレア試験に落ち、貧乏暮らしを強いられていた。セザンヌも父親と喧嘩をして家を飛び出し、パリに出てきたものの、サロンは落選続きで、思い通りの絵が描けずに苦しむ。その時ゾラがひそかに思いを寄せる造花売りの女性ガブリエルとセザンヌは付き合っていた。

1963年、サロン落選展でマネの「草上の昼食」がスキャンダルとなる。その帰り道、セザンヌはゾラからガブリエルと付き合っていることを打ち明けられ、ゾラに「愛のためなら裏切りを許そう。友情の裏切りは許せん」と伝える。

1870年、普仏戦争でゾラ一家がレスタックに避難してくる。しばらく滞在したのち、ゾラは文筆家としての使命から母と妻をセザンヌの傍において、自分は混乱のパリへ戻る。

その後、セザンヌの自宅を訪れたゾラは、セザンヌの妻オルスタンがセザンヌに「絵のことばかりを考えていて私を愛してくれない。絵はもうやめてほしい」と激昂しているのをたまたま目撃する。その様子はのちのゾラの作品「制作」モチーフとなった。

1880年、メダンにあるゾラの別荘で晩餐会に招かれたセザンヌは、旧友バティスタンを激昂させ、その後、皆に悪口を言われる。その場面もゾラの「制作」のモチーフとなる。

その5年ぶりにエクスアンプロヴァンスでゾラはセザンヌと再会。その時ゾラは画家をモチーフとした新しい作品を書いていたが、セザンヌには「詳細を伝えられない」と告げる。そしてお互いの恋愛観について語り合い、ゾラは自身に子供がいないことに関する心残りをセザンヌに伝える。

1888年にパリ近郊メダンにあるゾラの家を妻オルタンスと共に訪ねたセザンヌ。ゾラがセザンヌに「なぜ他人行儀になったのか?」と尋ねると、セザンヌはゾラの作品「制作」で自分をモデルにされたことでゾラに怒りをぶちまける。その日を境にゾラとセザンヌの交流が途絶える。セザンヌの絵は少しずつ売れ始めた。

ゾラは27歳年下の女中を妻にして子供を作り、妻アレクサンドリーヌ(ガブリエル)も二重生活を認知する。

1899年、ヴィクトワール山で作品制作中のセザンヌは、ゾラが近くに来ていることを知らされる。セザンヌは急いで駆けつけるものの、市長からインタビューを受けていたゾラが、セザンヌに関して「彼は天才だった。だが才能は花開かなかった」と言っているのを目撃してしまい、静かに去っていく。

1902年、暖炉の排気不全でゾラは謎の姿を遂げた。 彼の文学と献身は歴史に刻まれている。人知れずゾラの死に涙したセザンヌは1906年肺炎で筆を握ったまま世を去った。

「セザンヌと過ごした時間」の感想と考察

物語は1888年、「制作」の発売後、セザンヌが久々にメダンにあるゾラの家へ訪れるところから始まり、その場面を起点に各年代への回想シーンが続きます。

裕福な銀行家の父を持つセザンヌとは対照的に、母子家庭で貧乏暮らしを強いられる少年時代のゾラ。「芸術の世界で大成功したい」という共通の夢を持ち、お互いに支え合って生きていきます。

やがて作品がヒットして大成功したゾラと、なかなか才能が認められずに葛藤するセザンヌには少しずつ心の距離ができます。その距離が決定的となったのが、セザンヌをモデルにしたとされるゾラの作品「制作」でした。売れない画家がさらに落ちぶれていくこの小説を読んだセザンヌはゾラに「青春の思い出を利用したのか」と問い詰め、激昂します。

この映画を見てから実際に「制作」を読んでみました。

セザンヌがモデルになったとされる主人公クロードのひどい描かれようは清々しいほどです。当時の印象派の画家達による交流の様子も垣間見ることのできるリアリティに溢れた作品で、次々と読み進めたくなる面白さです。

しかし自分の親友が、自分をモデルにこんな小説を書いたら激昂したくなるのも無理はありません。ゾラは青春時代の思い出さえも仕事に利用する、仕事に魂を売った作家という見方もできます。そこまで思いきっているから19世紀フランスの自然主義作家として歴史に名をのこすほどの影響力を持てたのでしょう。

ゾラの職業人としての覚悟、セザンヌの意志を貫く生き方を感じられる本作品、美しい南仏の自然とともに楽しむことができます。

南仏のセザンヌのアトリエを訪れた後と、ゾラの「制作」などの作品をいくつか読んだ後に観たことで、二倍楽しむことができました。今度は映画の舞台となったメダンのゾラ記念館も訪れてみたいと思います。

メダンにあるゾラの家

エクスアンプロヴァンスにあるセザンヌのアトリエを訪れた時に撮影した写真
セザンヌのアトリエ近くにあるサンヴィクトワール山を見渡せる丘より

本作品の主題となったエミール・ゾラ「制作」の考察記事はこちら

エミール・ゾラ「制作」あらすじと考察(ネタバレあり)パリ印象派時代の芸術家たちの交流

映画「ゾラの生涯」の解説記事はこちら

映画「ゾラの生涯」ドレフュス事件を描いた歴史的価値の高い作品

Ayacoライター
アラフォー独身おひとり様女。10代の時、世界文学を読み漁るうちに、日本の学校教育で教わる生き方との矛盾を感じる。進路に悩み、高校の普通科を1年で中退。 通信制高校に編入し、同時に大検(現在の高卒認定資格)を取得して美大へ入学。在学中にフリーランスのグラフィックデザイナーとして起業。その後、Web制作会社でディレクターとして勤務後、大手広告会社のライターを経て2度目の起業。 30代半ばに、美大へ進学するきっかけとなった、印象派時代のフランスの画家達が過ごした聖地を旅する。 地方在住のアラフォーになり、コロナ禍をきっかけに、学生時代からの夢であった、知的探究心の向くままに世界の文学に触れる日々を過ごしている。 オフィシャルサイトはこちら
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アラフォー独身おひとり様女。10代の時、世界文学を読み漁るうちに、日本の学校教育で教わる生き方との矛盾を感じる。進路に悩み、高校の普通科を1年で中退。 通信制高校に編入し、同時に大検(現在の高卒認定資格)を取得して美大へ入学。在学中にフリーランスのグラフィックデザイナーとして起業。その後、Web制作会社でディレクターとして勤務後、大手広告会社のライターを経て2度目の起業。 30代半ばに、美大へ進学するきっかけとなった、印象派時代のフランスの画家達が過ごした聖地を旅する。 地方在住のアラフォーになり、コロナ禍をきっかけに、学生時代からの夢であった、知的探究心の向くままに世界の文学に触れる日々を過ごしている。 オフィシャルサイトはこちら