フランソワーズ・サガンの小説を、「甘くてほろ苦い砂糖菓子のよう」と誰かが例えていたのを以前、どこかで目にしたことがあります。
この小説はまさにその例えの通りだと思いました。
サガンのデビュー作「悲しみよこんにちは」のようなみずみずしさから人生経験を積み、35歳になったサガンの描く、退廃的で気怠く、そして心地のよい言葉の数々を、ビターチョコレートのように楽しむことができる、そんなストーリーです。
小説の間にサガンの自伝的エッセイが挟み込まれているのも特徴です。
目次
著者プロフィール
1935年6月21日、母方の家族が住んでいるロットのカジャルクに生まれる。父親は大手電気会社の重役、母親は地主というブルジョワ家庭て育った。
1939年〜1945年の第二次世界大戦中、一家はリヨンに住み、その後、ドーフィネ地方ヴェルコールに住む。
戦後、家族はパリの自宅に戻る。「キキ」の愛称で呼ばれていたサガンは学校生活になじめず、3ヶ月で退学となる。その後、寄宿学校に入れられ、その後も転校を繰り返した後、2度目の受験でバカロレア(フランスの高等学校教育の修了を認証する国家試験)に合格し、ソルボンヌ大学へ入学。在学中に執筆した「悲しみよ、こんにちは」で小説家デビューする。
サガン「心の青あざ」の登場人物
・ セバスチャン・ヴァン・ミレン
スウェーデン貴族、40歳。 大富豪夫人の愛人となり、 カフスボタンやライターなど彼女の高価な贈り物を売り払って暮らしを立てる。
・ エレオノール・ヴァン・ミレン
セバスチャンの妹、39歳。 のんびり推理小説を読んで暮らしている。
・ロベール・ベッシー
セバスチャンの古い友人。中背の、ちょっと太った若作りの男で、40歳ぐらい。 いくつかのクチュール店や劇場のマスコミを担当し、パリの数多い夜の催しを企画している。留守の間、ヴァン・ミレン兄妹に アパルトマンを貸す。
・ノラ・ジュデルマン
パリ社交界の大富豪の夫人。 セバスチャンを、若い愛人たちの一人に入れて、 彼に高価なプレゼントを贈る。
・マリオ
ジュデルマン夫妻が南フランスに所有する別荘の庭師。エレオノールと愛人関係になる。
・シレール夫人
セバスチャンとイレのエレオノールがロベールに借りた家の管理人
・ブリュノ・ラフェ
25歳、フランス映画会の新進スター。 悪魔のような美男子で、才能があって、映画雑誌は彼に関する記事でいっぱいだった。
「心の青あざ」のあらすじ(ネタバレあり)
「スウェーデンの城」の 主人公たちであるスウェーデン貴族の兄弟、セバスチャンとエレノオールは、 精神的に近親相姦に近い愛情を持っております。
スカンジナヴィアのエレノオールの夫の家での長い逗留から一緒にパリに到着した二人は、セバスチャンの旧友ロベール・ベッシーが留守の間に二人にアパルトマンを貸してくれたので、そこで享楽的な生活を送っていました。
ある日、ロベールの知人を名乗る人から電話が入り、兄妹はパリ社交界のパーティーへ招待されます。
セバスチャンはそのパーティーで出会った大富豪夫人のノラ・ジュデルマンの愛人となり、彼女から送られる高価なカフスボタンやライターを売って生活します。
夏のバカンスでは、ジュデルマンが南仏に所有する別荘で庭師として働くハンサムな青年マリオとエレノオールが愛人関係となります。
南仏からパリに戻った兄妹はロベールが用意した小さな二部屋付スタジオに住み始めますが、 セバスチャンは推理小説を読みふけるエレノオールに孤独感を抱き、ノラ・ジュデルマンが住むモンテーニュ街の広壮なアパルトマンへ向かいます。
ノラと一夜を共に過ごしてから、セバスチャンはエレノオールが恋しくなり、再びエレノオールのいるマダム街のアパルトマンに戻りました。
やがてセバスチャンはマスコミ業界で活躍するロベール・ベッシーのもとで働き始めます。そこで兄妹はロベールの会社の名馬であるフランス映画会の新進スター、25歳のブリュノ・ラフェと出会います。
バイ・セクシャルのブリュノは、ロベールと一般に同性愛的と呼ばれる関係を持っていました。
しかしブリュノとエレノオールは恋に落ちます。
もともと神経的疲労で錠剤を常用していたロベールはブリュノとエレノオールの関係を知ってしまい、ショックを受けて自ら命を絶ってしまいました。
感想と考察
この小説はサガンが1960年に発表し、芝居として大成功した戯曲「スウェーデンの城」の続編です。
「スウェーデンの城」ではエレノオールの夫ユゴーが殺人事件を起こし、ユゴーが刑務所へ送られたため、エレノオールは兄セバスチャンと一文なしで、昔住み慣れたパリに戻ってきました。
そこからこの続編が始まります。
ストーリー自体はシンプルですが、場面展開の合間にサガンが本音を語る自伝的エッセイが挟み込まれており、小説とエッセイの対比が味わい深く、この作品の見どころです。
そして何よりも、サガンの得意とする登場人物の掘り下げられた心理描写が、この作品の魅力と言えるでしょう。
私はサガン作品のストーリー以上に心理表現が気に入っています。
言葉のひとつ一つが色とりどりのほろ苦い砂糖菓子のように見えるのです。
コーヒーを片手に何度も繰り返し読みたくなります。
「スウェーデンの城」も読んでみたくなりました。
フランス文化ならではの芸術性の高さを楽しめるサガン作品、その魅力が、日本でももっと知られるといいなと思います。